日本の公的保険制度は、病気やケガ、失業、育児、老後など、誰にでも起こりうるリスクやライフステージの変化に社会全体で備える仕組みです。その中でも「社会保険」は、企業に勤務する方を中心に多くの人が加入する、日常生活に深く関わる制度といえます。本記事では、2025年の公開時点を目安に、企業実務における社会保険の基本知識から国民健康保険・国民年金保険との違い、加入要件までわかりやすく解説していきます。社会保険とは?社会保険とは、国が法律に基づき実施する公的保険制度で、「病気やケガに備える」「老後の生活に備える」「育児や失業時の収入減に備える」などセーフティーネットの役割を担います。医療保険や年金保険、労働保険(雇用保険・労災保険)など、さまざまなリスクを社会全体で支え合うことで、個人の負担を軽減する仕組みが特徴です。広義の社会保険広義の社会保険は、以下の5種類を指します。健康保険(医療保険)介護保険年金保険(国民年金・厚生年金)雇用保険労災保険このうち雇用保険と労災保険は「労働保険」と呼ばれ、労働者の失業や業務上のケガなどをカバーする保険です。企業で働く人は、健康保険と厚生年金保険(40歳以上の場合は介護保険を含む)、さらに雇用保険や労災保険に加入することになります。狭義の社会保険一方で狭義の社会保険は、企業で働く人が加入する以下の3つの公的保険を総称したものを指します。健康保険(医療保険)介護保険厚生年金保険雇用保険や労災保険といった労働保険は含まず、手続きが密接に関係する上記の3つを狭義の社会保険と呼ぶのが一般的です。企業実務において「社会保険」と言う場合は、この狭義の意味を指し、「労働保険」とは区別して呼ばれるのが通例です。続いて、狭義の社会保険の種類とその内容について解説します。狭義の社会保険の種類健康保険健康保険は、従業員本人やその扶養家族が病気やケガをしたときに、医療費の自己負担を軽減してくれる制度です。医療費の原則3割負担(年齢によって2割の場合あり)で診察を受けられるほか、傷病手当金や出産手当金、出産育児一時金などが支給されます。加入要件を満たす企業に勤める従業員の場合は、協会けんぽや健康保険組合の被保険者として加入するのが一般的です。介護保険介護保険は、要介護状態になった方が介護サービスの負担をおさえて利用できるように支える制度です。40歳以上のすべての人が加入し、保険料が徴収されます。企業で社会保険に加入している人は、40歳になると健康保険料に介護保険料が上乗せされて給与から控除されます。65歳以上になると、介護保険は市区町村の管理となり、ご本人が直接市区町村に介護保険料を支払うことになります。厚生年金保険厚生年金保険は、老後に受給できる「老齢厚生年金」に加え、障害を負ったときの「障害厚生年金」や家族が遺された場合の「遺族厚生年金」など、幅広い保障を行う制度です。保険料は給与と賞与に応じて計算され、企業が従業員と折半して納付します。国民年金だけの場合と比べて、将来受け取れる年金額が増える点が大きなメリットです。国民健康保険・国民年金保険との違い自営業の方や学生の方、企業で働いていても社会保険の加入要件を満たさない方は、国民健康保険と国民年金保険に加入することになります。それぞれについて簡単に解説します。「国民健康保険」と会社員が加入する健康保険の違い「国民健康保険」は、自営業の方や学生、無職の方など、職場の健康保険に加入していない全員が加入する公的医療保険です。自治体(市区町村)や国民健康保険組合が運営しており、保険料は世帯ごとの所得や人数などをもとに計算され、原則として加入者が全額負担します。一方で企業勤めの方が加入する健康保険では、保険料は給与と賞与額に応じて計算され、企業と従業員で折半して納付します。扶養家族がいても保険料額には影響がなく、扶養家族も含めて保障を受けられる点が大きく異なります。「国民年金保険」と厚生年金保険との関係「国民年金保険」は、20歳以上の自営業の方や学生、無職の方など、職場の厚生年金保険に加入していない方全員が加入する公的年金保険です。国民年金保険料は収入によらず一律の金額(17,510円 ※令和7年度)となり、加入期間は20歳から60歳です。一方、厚生年金保険料は、加入者本人が受け取る給与や賞与の金額をもとに計算され、加入期間は、入社したときから原則70歳未満までです。厚生年金加入者は国民年金にも加入しており、次のような二階建ての構造をしています。出典:日本年金機構『公的年金制度の種類と加入する制度』会社員である第2号被保険者に扶養されている配偶者は、手続きをすることで保険料を支払う必要がなくなります。これは第1号被保険者に扶養されている配偶者には適用されない仕組みです。国民年金の場合は、本人と配偶者それぞれが第1号被保険者となり、それぞれに国民年金保険料の納付義務があります。企業で働く従業員の社会保険の加入要件事業所(企業)の加入要件まず、事業所側の視点として押さえておきたいのが「適用事業所」という考え方です。事業主や従業員の意思、企業の規模・業種に関係なく、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務づけられる事業所を「強制適用事業所」と呼び、以下のいずれかに該当する事業所を指します。常時従業員を使用する株式会社や、特例有限会社などの法人の事業所または国、地方公共団体※代表者1名のみの場合も含みます個人事業所で常時5人以上の従業員を使用している※サービス業の一部や農林漁業などの業種を除きます強制適用事業所に当てはまらない個人事業所でも、従業員の半数以上が適用事業所になることに同意し、事業主が申請をして厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受ければ適用事業所となることができます。これを「任意適用事業所」と呼びます。また、任意適用事業所の場合は、健康保険のみ・厚生年金保険のみのどちらか一つの制度のみに加入することも可能です。従業員やパート、アルバイトの加入要件企業に勤める従業員が以下の要件に該当する場合、法律上、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられます。短時間労働者(パート・アルバイト)で、以下のすべてを満たす場合週の所定労働時間が20時間以上2か月を超えて雇用される見込みがある所定内賃金の月額が8.8万円以上学生ではない(夜間・通信制の方、休学中の方、卒業後も同一事業所に引き続き勤務することが見込まれている方を除く)厚生年金保険の加入者数51人以上の事業所に勤務している70歳未満の正社員・役員、または週および月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である場合は、加入対象です。なお、厚生年金保険は70歳に達すると保険料の支払義務がなくなり、健康保険は75歳に達すると資格喪失となり、「後期高齢者医療制度」に移行することになります。週30時間以上および1か月の所定労働日数が15日以上の場合は、パート、アルバイトの名称を問わず、加入対象となります。 まとめ社会保険は、公的医療保険や年金保険を中心に、私たちの生活を幅広く支える重要な制度です。企業勤めの方は、会社を通じて健康保険と厚生年金保険に加入し、40歳を過ぎると介護保険料も納める仕組みとなります。一方で、自営業者などの方が加入する国民健康保険や国民年金とは保険料の負担や受け取れる給付などが異なるため、制度の違いを理解するようにしましょう。社会保険への加入要件は「どの規模の事業所で働くか」「週に何時間働くか」「何歳であるか」などによって決まり、法改正などによって要件も変わっていきます。従業員の入社退社時はもちろん、雇用形態の変更に伴う社会保険手続き、一定年齢到達による各種手続きなどに漏れなく対応するためにも、弊社が提供する、従業員ライフサイクルを一元管理するツール「mfloow(エムフロー)」をご活用ください。